アメリカの地方都市に留学した人は、休み中にロサンゼルスやニューヨークなどの大都市へ遊びに行く人が多いという。わたしたち夫婦にはそのような気持ちはなかった。金がかかって人疲れする都会へ行くよりも、オレゴンの自然を満喫したかった。ポートランドから日帰りで近場へは行けるが、オレゴンも結構広いので隅々までは見てまわれない。そこでこの際、2週間かけてぐるっと一周してみようということになった。ちなみに陸地面積で比較すると、日本は約38万平方キロで、オレゴン州は約24万平方キロである。ほぼ矩形をしたオレゴン州を、時計と反対周りに一周する計画を立てた。
8月31日
留学中は山登りをしようと、テントや炊事道具などいろいろ持ってきていたので、それを中古のスバル・レオーネに積み込んで、意気揚々と出かけたのである。
ポートランドから西へ向かい、太平洋にのぞむ町、ティラムークに出る。ここまでくると本当に田舎で、あちこちに牧場があり、牛がのんびり草を食んでいる。天気は良いが暑いというほどではない。
ティラムックからオレゴン・コースト・ハイウェイを南下する。しばらくは内陸部の道だが、リンカーンシティで海岸線に出て、あとは海が見える道をドライブする。松林と吹く潮風が、日本海を望む新潟の道を髣髴とさせる。ホエール(クジラ)湾、オッター(ラッコ)岩、アゲート(メノウ)浜などを過ぎ、大きな町ニューポートに着く。ここの港のレストランで昼を食べた。新鮮な魚介類が手ごろな値段で食べられて嬉しかった。その後水族館へ寄ってみる。大きく、生き物の展示の仕方が子供にも親しみやすい。
そして今夜の泊りは、ホエーラー・モーテルにした。海に落ちる夕陽が見える部屋で、渉もよろこび、旅の第1泊目とする。
9月1日
今日はオレゴンコーストをさらに南下しながら、途中を見て歩く。
最初のポイントは、ケープ・パーパチュア。ここでは磯での動植物の生態が見られるという。道路沿いの駐車場にレオーネを停めて、磯へ降りていく。たしかに潮だまりには小魚の他、アメフラシや大きなヒトデがたくさんいる。そこでしばらく遊ぶ。
さらに南下していく。このあたりはずっと公園の中の様で、それも1つでなくいろいろな名前の公園の標識が次から次に出てくる。今夜はキャンプをしようと思い、適当なキャンプ場がないか、探しながら走る。そうすると、あれほど沢山公園があると思いながら走って来たのに、なかなか無い。それで、もうだいぶ遅くなってきたので、あまりぱっとしない道端のキャンプ場に入って泊ることにする。
このキャンプ場はほとんど利用者が見当たらなかった。しかし、夜になるとその理由がわかった。キャンプ場の周辺の道を、バギー車のようなものがすごい音とスピードで走り回るのだ。これではここでキャンプしても楽しくない。ハイウェイからこのキャンプ場に入って来た時、砂地の道に沢山の轍があったので、「こんな静かなのにおかしいな」と思ったのだけれど、あとの祭りであった。仕方ない。教訓としよう。
9月2日
昨夜は、キャンプ場の近くで走り回るバギーのような車の音に甚だしく睡眠を妨げられた。ぼんやりとした寝不足の頭で目覚める。今日は砂丘を見ながら、さらにオレゴンコースト・ハイウェイを南下する。
砂丘はデューンという。デューンズ・オーバールックというところで車を停め、砂丘へ歩いて行く。砂が白くてきれいだ。天気もいいので、砂丘に登ったり降りたりして遊ぶ。規模はそれほど大きくないので遭難する心配はなし。
ハイウェイにもどり南下する。これからオレゴン州の南東の端にある町、ブルッキングスまで行き、ハリス・ビーチ州立公園の辺りでキャンプする。ブルッキングスの手前に公園があった。ハイウェイの山側がキャンプ場で、海側にハリスビーチが広がっている。ここからすぐ南側がカリフォルニア州なので、このあたりには当然青い空が広がっているだろうと思っていた。「カリフォルニアの青い空」という歌があるでしょう。実際には曇って霞んだようなさえない天気で、浜へ出てみても肌寒く、遊ぶような雰囲気ではなかった。
9月3日
これまでオレゴンコーストを南下し、オレゴン州の西側の最南端まできた。これから進行方向を東に変えて進む。ブルッキングスからゴールドビーチまで一旦戻り、ログ川沿いの山地へ入っていく。
アグネスまで行き、そこで昼食にする。どのレストランにするか迷うほどの選択肢はなく、ルーカス・ロッジという農場のようなところに入る。十数人のグループの一員となり、案内されたのは川にのぞむオープンな食堂。そこに座っていると、出てきたのはゆでトウモロコシ、フライドチキン、パンケーキといった開拓時代のご馳走。沢風に吹かれながら食べる素朴な料理が美味しかった。
アグネスからさらに川を遡り、山を越えてグランツパスへ下る。ここは3年前にジョーに会いにやって来たところだ。懐かしい街並みを過ぎて、今夜の宿泊予定地であるメッドフォードへ車を走らせる。途中で雷雨になり、車窓からゴージャスな雷雲と稲光が見えた。
メッドフォードでは安いモーテルに泊まった。
9月4日
メッドフォードから北へ、クレーターレークを目指し、針葉樹林帯の道を登って行く。さらに山腹を東へ巻いて行き、標高1,800m地点にあるマザマ・キャンプ場に泊まることにする。背の高い針葉樹の間にきれいにキャンプ場がしつらえてある。熊が出るので食糧はこの中へ入れろ、と頑丈な鉄製の箱が各キャンプサイトに置いてある。キャンパーは少なく、冷たい雨がそぼ降っていて、ちょっと心細い感じだ。食事をして早々に寝る。
9月5日
マウント・スコットに登った。
9月6日
車で北上しベンドまで行く。そこのちょっと気味が悪いレストランで夕食を食べ、近くからマウント・バチェラーなどの山が良く見える安モーテルに泊まる。
9月7日
モーテルのあたりから良く見える山の麓へハイキングへ行くことにする。ベンドの町から西へ向かうスカイライナーズという道をたどる。ベンドの町からみえるブロークントップなどの山々がスカイラインになっているので、このような道の名前が付いたのだろう。その道をどん詰まりまで行くと、ツマロ・クリークのピクニックエリアに着く。そこで車を停め、ハイキングする。ツマロ・クリークの支流のブリッジ・クリークに沿ったトレールを歩く。途中で4人組のハイカーに会い、挨拶を交わす。山に来る人は気持ちが良い。
途中きれいなせせらぎで遊んだりしてから、車を停めたところに戻った。またゆっくりと来たいところだと思った。ベンドのモーテルへ戻り、もう1泊する。
9月8日
ベンドからラ・パインまで南下し、フリモント・ハイウェイへ入る。内陸へ向かうと針葉樹林はみるみる疎らになり、砂漠のようになっていく。そしてフォート・ロックに着く頃には、すっかり木々の生えていない乾燥地になってしまった。そんなところだから、フォート・ロックの馬蹄形の岩山は目立つ。車からおりて、中をひと廻りしてみる。まさに要塞岩ですな。
またフリモント・ハイウェイに戻り南下を続ける。単調で、交通量のすくない直線道路が続くが、ときおり前方を走るピックアップの背面ガラスに、ショットガンがこれ見よがしに掛けてあるのが見える。自分の命は自分で守る、西部劇の世界だね。
サマーレイクという大きな、殺伐とした湖の岸を南下する。ペイズリーという町で昼飯にする。西部劇に出てくるようなバタンとする扉のレストランに入る。ハンバーガーを注文したのだけれど、全体にグレービーがかけられて出てきたのにはビックリ。
さらに南下すると、近くに湖はないレイク・ビューという町があり、そこのモーテルに泊まることにする。
9月9日
今日はハートマウンテンのアンテロープ保護区を通って、スティーンズ・マウンテンまで行く。レークビューの町から、山を越え、谷を越えてハート・マウンテンの北の縁にある保護区に出る。小さな建物があって、アンテロープのことを紹介している。わたしがアンテロープのことを知ったのは、「ホーム・オン・ザ・レンジ」というアメリカ民謡をとおしてだった。その歌が好きで、アンテロープという生き物を見てみたかった。しかし、アンテロープは一体どこへ行ってしまったのだろう。1頭も見えなかった。
道は地平線まで真っ直ぐである。そこをどんどんと東へ走った。あたりに何もない道をひたすら走ると、ようやく少し広い道にぶつかった。そこを少し北へ行くとフレンチグレン(標高1,260m)に出た。ここにこじんまりしたホテルがあって、そこに泊りたかったのだけれど満室だった。それでしかたなく今夜はキャンプと決めた。
フレンチグレンからダートのスティーンズ・マウンテン・ループという道を、標高2,220mまで登る。そこにフィッシュ・レークという小さな湖があり、脇にキャンプ場がある。今夜はここに泊まる。道をさらに登っていくと標高2,700m地点に展望台がある。ここから壮大なゴルジュが見下ろせる。足場が不安定なので渉を抱いてゴルジュを見渡したが、あまりのスケールの大きさにめまいがして、早々に車へ戻った。そしてフィッシュ・レークまで下りキャンプする。
平原のむこうに落ちる落日が素晴らしかった。
9月10日
早起きして、スティーンズ・マウンテンの山頂(2,967m)から朝日が昇るのを見に行く。山頂のすぐ近くまで車で登れる。渉は眠たそうだったので、おんぶして登る。山頂には何人か人がいて日の出を待っている。すると平原のむこうから、昨日見た落日が登ってきた。スティーンズ・マウンテンは山体が南北80㎞に及ぶ大きな山で、辺りにさえぎるものもない。その山頂から見る日の出はゴージャスだった。
すでに紅葉が始まっている山肌を下り、テントを撤収して下山する。ほとんど歩かず、レオーネで上り下りしている。ダートの道だが、幅は広く、よく整備されており、しかもカーブが無いので、下りは80㎞くらい出しても不安を感じない。
さて今日はこれからまたひと走りする。まず、フレンチグレン・ハイウェイを北上して、バーンズを目指す。単調な道を100㎞ほど走って、懐かしいバーンズの町に着く。3年前この町で1泊し、夜映画館へ行ったのだ。町を通り抜けさらに北上する。道が登りになり、針葉樹林帯に入る。3日ほど砂漠のようなところばかり走って来たので、木のにおいを嗅ぐとホッとする。しばらく行くとまた荒涼とした平原になり、また針葉樹林となり、ということを何度か繰り返してジョン・デイという町に着き、そこから東へ向かい山をいくつか越える。かなり走りつかれた。ベーカー・シティーという町を過ぎ、フラッグスタッフ・ヒルにあるオレゴン・トレイル・インタープリティブ・センターという施設で、オレゴン・トレイルの歴史を学ぶ。
今夜はベーカー・シティーのモーテルにでも泊まろうかと思った。しかし何か町の雰囲気が気に入らず、他に良いところが無いか探した。すると、あと1時間ほど東へ走ったところにハーフウェイという小さな村に良い泊り場があるようだった。
モーテルと書いてあるが、ロッジのような作りのところに泊まることにする。いい感じの建物だ。夕食は近くのレストランへ歩いて行く。美味しいポークチョップが出て、久美ちゃんが感激していた。ハーフウェイに来て良かった。
9月11日
ヘルズ・キャニオン展望台へ登り、チーフ・ジョセフのモニュメントがあるワロア湖へと下る。ラ・グランドへ出てそこのモーテルで1泊。
9月12日
旅も最終日となり、だいぶ疲れが出て、ささいなことで久美ちゃんと口げんかなどする。毛織物で有名なペンデルトンを経て、コロンビア川沿いにポートランドに出て、2週間の旅を終えた。