1992年6月5日金曜日

マウント・アダムス(3,742m) 1992年6月5日

 先月マウント・フッドに登ったメンバーの中にスキップという人がいた。後日その人の家に遊びに行ったとき、その家のはす向かい住んでいるジョン(40歳)という外科医の家族を紹介された。ジョンは山好きで、奥さんは日系人なのですぐに打ち解けた。それで、「今度一緒に山へ行こう」、と約束をした。その二、三日後にジョンから電話があり、ワシントン州のマウント・アダムスへ北稜から登ろうと誘われた。

マウント・アダムスはコロンビア川をはさんでマウント・フッドと向かい合っている。東隣には1980年に大噴火したマウント・セントヘレンスを間近に見る峻峰で、南面に一般ルートがとられている。北稜はアプローチが長いため敬遠されがちだが、マウント・レーニアを背にしながら登るリッジは、すっきりして気持ちが良さそうに思えた。

出発点のキーレン・クリーク・キャンプの標高は約1,350mで、山頂との標高差は2,350mある。日帰りでの山頂往復を予定しており、長い1日になるだろうな、と思いながら針葉樹の林をスニーカーで歩きはじめる。(6:25)

時折、木間越しにマウント・レーニアが見える。自分たちが広大な樹海の中を歩いているのがわかる。大した登りもなくハイキャンプ(2,000m)に着く。(8:00)眼前にマウント・アダムスの北東面が見える。その左側に北岩稜が左右の氷河に挟まれて切り立っている。リッジの上にも所々雪に覆われた箇所がある。

夏には草原になるところが、今はまだシーズンが早く切れ切れの雪田上を歩く。徐々に傾斜が出てきて、火山岩のグザグザしたトレースをたどるようになる。標高2,700mあたりで北稜に取り付く。(10:15)岩稜には明瞭なトレースがあるが、岩がルーズで歩きにくい。3,300m地点でアイスキャップの縁に乗る。(14:30)

ここでスニーカーから山靴に履き替え、アイゼンを着け、ピッケルを携える。時々飛来する雲が行く手を遮る。雪面の傾斜が緩み、頂上の平地に着いたことが分る。パッと晴れた時に、広大な山頂氷原のむこうに山頂が見えた。あと30分も歩けば山頂に着くというあたりで、ジョンは「もう登れない」とギブアップしてしまう。「1時間で山頂を往復してくるから、必ずここで待っていてくれ」、と言い残してひとりで山頂へ向かう。

山頂には足跡以外何もなく、残念ながら景色は見えなかった。(15:40)すでに出発してから9時間たっている。下山にかかり、ジョンと無事合流する。疲れて集中力が途切れそうになるので、ことさら慎重に北稜を下る。朝よりも融けた雪田で、スニーカーがビショビショになる。うす暗い針葉樹林をひたすら歩き、キーレン・クリーク・キャンプに戻った。(20:10)