2008年3月22日土曜日

2008年3月22日 あそぶ:自転車 大井から上井出 141㎞


・埼玉大学の置き土産

 2002年からの埼玉大学出向で良いことが3つあった。

ひとつは、母の看病と看取りを後悔なくできたこと。

埼玉大は早稲田より近く、残業もほとんどなかった。仕事から帰ってから、毎日のように母を病院に見舞いに行き、いろいろな話をすることができた。

ふたつめに、渉に国立の高専の存在を教えてあげられたこと。

埼玉大で一緒の部署だった人が、秋田の高専に転勤になった。その人が、高専の特徴をわたしに教えてくれ、わたしは高専は渉に向いているかもしれない、と思った。

そして最後に、スポーツとして自転車に乗る楽しみを知ったこと。

自転車は買い物や通勤のためのチョイ乗りだけではなく、気分転換、健康増進、人とのつながりの維持にも大いに役に立つことを実感した。

・「ブルべ」への憧れ

そしてわたしは今、「ブルベ」という自転車の乗り方に関心を持っている。

ウィキペディアによればブルべとは、「組織化され、制限時間内での完走の認定を伴う自転車での長距離ロングライドイベント」だそうだ。

これまでわたしがブルベに関わったわずかな経験は、4年前にブルベを愛好している埼玉のグループの練習会に参加したことだけであった。

 その後もわたしは、自分の体力の程度や、自転車走行の正しい技術については、ほとんど独習ばかりであった。

 その一方で、雑誌やウェブサイトでブルベについて知れば知るほど、ひどく憧れて、どんどん気持ちだけがのめり込み、ついに国内で開催されるブルベに参加してみよう、と思い、申し込んだ。

それがこの何度も峠を越えながら富士山を1周する200㎞のブルベである。それに出場して自分の実力がどの程度なのか知りたかった。

完走するのはかなり厳しいかもしれない、と思ったので、渉にコース周辺に車で来てもらい、わたしがリタイヤした際には回収してくれるように頼んだ。その車には久美ちゃんと波垂も乗ることになった。

・成功の方程式

 これまでわたしは大学受験、就職試験、高峰登山などいくつものことに挑戦した。そして、事前の準備がきちんとでき、前夜に良く寝られた場合は大抵良い結果がついてきた。それができなかった場合は、いい結果がついてこなかった。

 今回は前夜全く寝られなかった。

23時頃までにおよその準備は出来た。ようやく床についたものの、明日走るコースのことや、翌朝早く郭町の家を出発することが気になった。目がさえてしまい、焦る気持ちが高まって、ついに一睡もできずに朝を迎えた。

・当日の首尾

 渉の運転で夜明け前の高速道を飛ばし、出発点の小田急線開成駅前(標高約36m)に着く。

まだほかのバイカーの姿は見えない。

 チェックを受けて6時50分にスタートする。他の参加者と同じペースで市街地を抜ける。中津川と四十八瀬川の分岐点付近で早くも右足が痙攣し始める。まだ走り出して15分しかたっていない。これからの長く厳しいコースを思い暗澹とする。

 そこから他の参加者を意識して走るのは止め、マイペースで行くことにする。

 車が多い国道246号線を走り、渋沢、秦野を過ぎて、左に蓑毛への坂道に入る。この道は大山や丹沢に登山する時に何度もバスに乗って通った道だ。こんなに急だっただろうか。

 蓑毛(標高約320m)に8時に着く。

暑いので服を少し脱ぐ。

 蓑毛からはつづら折れの道である。今朝出発直後の足の痙攣は、まだ完全に回復はしていないので、騙し騙し走る。

快調に標高をかせいでヤビツ峠(標高761m)に8時半に着く。ここで少し休憩。

まわりのバイカーは結構疲れた表情をしている。わたしはいい調子かもしれない、と思った。

このように自分の調子を判断しても、この長く厳しいコースが走り切れる保証はない。

 ヤビツ峠からは下り坂が続く。

道脇に砂利がたまったカーブなどがあり、高速でそんなところに突っ込んだら転倒は必至だ。体力は使わないが、神経がくたびれる。

 宮ケ瀬湖の湖畔に着くと道幅が広くなる。宮ケ瀬虹の橋を渡ったさきで左に細い道に入る。小さな峠をふうふういって越え、下ったところが梶野(標高254m)だった。まだ10時前だが、コンビニがあったのでここで早い昼飯にする。

 まだ3時間ほどしか走っていないが、かなり疲れた。完走できる自信はまったくない。わたしの隣で座って食事している参加者に話しかけてみた。ブルベに頻繁に参加しているという。

 梶野から道志川に沿ういわゆる道志道に入って行く。この道は山伏峠までダラダラとした登り坂と簡単に考えていた。実際に走ってみると、屈曲とアップダウンが多く、とても体力を消耗した。上り坂になるたびにがっかりし、仕方がないとあきらめて走ることを繰り返す。

山伏峠トンネル(標高約1100m)の手前ではギヤを最も軽くし、ゆっくりと登りきるのが精一杯だった。

山伏峠からなだらかな直線の道を山中湖まで下る。元気で天気が良く、初ブルベのプレッシャーがなければ、楽しいコースだろう。

山中湖畔の平野(標高990m)の商店でアイスキャンデーを買って食べる。

平坦な道を山中湖の東端まで走り、交通量の多い富士吉田へ向かう国道に入る。渋滞で止まっている車の左側を走っていくのは気持ちが良くない。

学生の時にお神輿かつぎのバイトをした富士浅間神社(標高約850m)の前と河口湖ICを過ぎ、コンビニでちょっと休憩する。そこにブルベの参加者らしき2人の青年がいた。彼らがわたしよりもとても元気そうに見える。

 これからまた緩い登りが続くので、気を取り直して走り始める。

幅広い道の左隅をゆっくり登って行く。とてもきつく感じられ、またコンビニで休んでしまう。アイスクリームを食べ、渉に電話をしてお互いに現在位置を知らせた。ついでに、これから白糸の滝に向うが、そのあたりでリタイヤする可能性が高いことも伝えた。

 アイスを食べて少し元気になったので、また走り始める。そこからはっきりとした急登もあったが、間もなくなだらかになり、そして平坦(標高1122m)になった。これであとは下り坂かと思うと気が楽だった。

 陽が傾いて気温が急に下がった。おまけに下り坂なのでペダルを漕がない。寒い。足がかじかんでくる。これをなんとか我慢して上井出のコンビニ(標高約480m)まで辿りついた。

両足が痙攣し、体が寒い。

走行距離141㎞、登高差1800m。リタイヤを決めた。

再び渉に電話して、現在位置を知らせ、迎えに来てもらう。

渉の運転で郭町に帰った。

 

このブルベの3日後に右足に猛烈な痛みがあり、病院へ行った。鎮痛剤で痛みは止まったものの、右足下肢の冷えとしびれが残り、現在に至るまで治っていない

少しのことにも先達がいた方が良い。ましてや、自分が経験したことのない難事にのぞむのであればなおさらである。