Neuf Brizach から Colmar までのあいだにトウモロコシ畑が広がっていました
このような茫漠とした風景の中を走るのが好きです
そのうち勝手に頭があれこれ考え始めます
ドミニクとの二人旅について改めて考えました
今回の旅を無事に終えるとドミニクとは80日間、4,000㎞ほど一緒に旅したことになります
どうしてこんなに長い間ドミニクと一緒に旅ができたのだろうかと思います
もっとずっと長い二人旅をしている人たちが他にいることは知っています
そうであってもわたしたちにできたことが嬉しいことには変わりありません
なぜこのようなことができたのでしょうか?
いきなり規矩準縄(きくじゅんじょう)という四文字熟語が頭に浮かびました
今わたしたちはフランスのアルザス地方を走っています
どこをだれと走っていてもわたしが日本人であることに変わりはありません
だから四文字熟語が真っ先に浮かんだのでしょう
人は必ずその人なりの規矩準縄を持っています
それまでの人生を通じて形成された個人的な習慣や日常のルールみたいなものです
快適さとか、合理性とか、美しさとか、いろんな理由でそういうことにした訳です
もし自分は規矩準縄など持たないという人がいたらそれがその人の規矩準縄になるわけです
人は大方その人の規矩準縄に基づいて行動します
朝は起きるところから始まって夜寝るまで規矩準縄はその人の暮らしについて回ります
人の生活の隅々まで及んでいる感じが重い四文字熟語にマッチしています
二人旅は言うなればお互いの規矩準縄を常に突き合わせながら移動する行為だと思います
二人で行動しているあいだにしょっちゅう規矩準縄がぶつかり合います
広いブドウ畑の真ん中で彼が小用を足したくなったことがありました
彼は「栄養分がたくさん含まれた液体をブドウの木にかけるのは良いことだ」と言います
わたしは「農家が育てているブドウの木にそれをかけるのは良くない」と言います
ここで決裂すればその後気まずいことになるでしょう
二人旅を続けるには妥協点を見つけ出さなくてはなりません
この時は口論することもなく「まあいいか」ということで二人で小用を足しました
またこれも走っている最中にかなりの雨が降ってきました
彼が「雨が降る中を無理して走るようなことはフランス人はしない」と言います
わたしは少々カチンときて「これくらいの雨であれば雨具を着て走れば大丈夫だ」と言います
この時は雨の降り方、目的地までの距離、体力の残り具合をめぐりかなりな議論になりました
それでも怒鳴り合うようなことはしませんでした
ほんの少しの雨の止み間を見つけて出発し、雨宿りしながらどうにか目的地まで行きました
結果的には冷静かつ合理的に主張した方の言うとおりに物事は進行します
あくまでわたしたちのあいだではということですが
ドミニクはとても几帳面で清潔好きで時間に正確で倹約家です
つまりかなり細々とした規矩準縄を持った人です
そのベースにフランス人およびカトリックの価値観があることは疑いありません
それに比べるとわたしはテキトーというかあまりこだわりがありません
言ってみれば緩い規矩準縄の持ち主だと思います
それが日本人的で仏教徒的であるからかどうかは分かりません
はっきりしているのは少々の文化的な差異には目くじらを立てないということです
一か月ぐらいの旅でしたらわたしは日欧の文化的な違いがほとんど苦になりません
日本食を一度も食べないであちらの食べ物で大丈夫です
シャワーを浴びるだけで平気で風呂が恋しくなることもありません
日本語を全く話さなくても精神が不安定になることもありません
わたしはドミニクほどには明確な規矩準縄を持っていないと思います
だからわたしはドミニクに合わせることがあまり苦ではないのでしょう
逆にドミニクのように規矩準縄が明確な人には二人旅が大変なこともあると思います
わたしのゆるーい規矩準縄をそのままに受入れなければならないときもあるからです
ドミニクにはそれができるからわたしたちは二人旅を続けてこられたのかなと思います
ーー
さて今日はアルザスのブドウ畑へ向けて出発です
ドミニクお気に入りの Neuf Brizach のキャンプ場を後にしました
Neuf Brizach の旧市街は要塞の中にあります
そこから出るときに跳ね橋のようなところを通り過ぎます
橋の欄干に5年前にここを通った時と同じように赤いベコニアが咲いていました
一時間半ほど走って Colmar に着きました
長く厳しい歴史を経験した街に美しい建物がたくさん遺っています
Colmar の街には美しい建築がそこかしこにちりばめられています
Colmar をあとにしていよいよアルザスのブドウ畑に入りました
アルザスは白ワインの産地として有名です
Beauvillé の噴水で水筒を満たして今夜の宿泊地 Sélestat に向かいます
アルザスのブドウ畑は一日で通り過ぎてしまいました
あちらこちらに印象的な景色が広がっていました
いま思うと一日しかいなかったのはちょっともったいなかったです
Beauvillé からブドウ畑の中を一時間半走って Sélestat に着きました
Sélestat は想像していたよりずっと雰囲気のある街でした
街の一角のキャンプ場にコウノトリが歩いていました
きょうは暑い中をたくさん走ったのでまずビールで乾杯します
夕食は Colmar で買ったソーセージとシュークルートです
これを冷えたアルザス産のリースリングを飲みながら食べ語らうしあわせ<出費> 18€(累計375€)