春の剣岳にスキーでアプローチして、岩場でクライミングするというぜいたくなプラン。実は1978年5月に今回と同じような計画をたて、ヨーロッパアルプス登山を前にしてMさんと来たことがあった。その際は天気が崩れて岩登りはできなかったが、剣沢と平蔵谷のスキー滑降は楽しむことができた。今回は前回よりもさらに天候に恵まれず、チームワークが悪かったことも手伝った、さんたんたる結果だった。
夜行の急行アルプスが信濃大町に着く頃には、空がどんよりとして、雨雲が「いつでも降らすぞ」とばかりにわたしたちを見下ろしていた。
黒部ダムを経由して、室堂平に出る。
一面の雪の原は、それはそれで気持ちが良いのだが、なんだか薄暗くて陰気である。雷鳥沢には大きく右側から回り込んで取りついた。その広大な斜面を正面から登っていく頃になると、雨粒がポツポツ落ちてきた。間もなく本降りになり、風も出てきた。ようやく別山乗越にたどりついた時には、体がかなり濡れてしまった。早くテント場へ行ってそこで休もうと、スキーで滑りにかかる。パーティーの足並みがばらばらで、どうしようもない。テント場につき、急いでテントを張って中に入る。全身ぐしょ濡れで、歯の根が合わないほどがくがく震えがくる。雨はぜんぜん降りやまず、わたしはとうとう寝袋と羽毛服を濡らしてしまった。これではいけないと、剣沢小屋へ行って、それらを乾燥させてもらう。そんなことをしているうちに、とうとう小屋にいる時間の方が長くなってしまった。
そうして何日も天気待ちをしているうちに、下山予定日になってしまった。
別山乗越に登り返し、雷鳥沢を下り、山崎カールの下を横切り、一ノ越に上がって、タンボ沢経由で黒部平へ滑りこむ。この下山日が一番楽しかったとは寂しい限りである。別山平で
雨が降ったら降ったなりに行動の仕方があると思う。来たるべき日に備えて、ザイルで確保しながらスキー滑降するとか、ずぶ濡れになることを覚悟してスキーの練習をするとか、やるべきことはあったと思う。それができないのは、メンバーに力がない証拠に思えて仕方ない。