室堂の雪原を歩いていると、頭上の雲がもう少しで切れて、太陽が顔を出しそうだ。暑い。(12:15)ところが、雷鳥沢の上りにかかるころにはすっかり悪天になってしまい、別山乗越の手前からは吹雪となる。
剣御前小屋で少し休んでから(15:00~15:30)別山平まで下ったものの(16:00)、今晩泊まろうとあてにしていた剣沢小屋はまだ営業を始めていなかった。しかたなく剣御前小屋まで戻ろうと登りはじめたが、激しい吹雪で早くもトレースが消えている。これ以上行動するのは危険と判断して、火と水無しだがツェルトでのビバークを決め込む。
吹雪は朝まで止まず、ツェルトが雪で埋まらないように何度か雪掘りに起きた。
5月3日 雪のち曇のち晴
吹雪が収まって来たところを見計らって、剣御前小屋まで登り返すことにする。(9:00)股下までの積雪でラッセルがきつく、大人数のパーティーの後からついていく。トップが苦しくなって交代している。剣御前小屋に着くと、そのパーティーがいたので、たった一言「どうも」とお礼した。
雷鳥沢に面した明るい食堂でラーメンを食ったり、缶ビールを飲んだりして、今日入山する予定のKを待つ。が、ぜんぜん来ない。そうこうするうちに雲がはれて、みるみるあたりの山々が姿をあらわしてきた。もうKのことはほっておいて、小屋の外に出て景色を眺めたり、スキーの足慣らしをしたりする。
夜寝ているうちに、目が痛くて涙が止まらなくなる。Kちゃんもだ。昼間、Kがいつ来るかと、ずっと窓から外を眺めつづけていたので、すっかり雪目になってしまったのだ。悪いやっちゃ、Kは。
5月4日 晴
剣御前小屋の裏手から、風の吹きつけている稜線を別山へ。(6:30)昨日までに新雪が50㎝ほど積もり、ところどころに吹きだまりができている。別山からは難なく真砂沢の源頭まで夏道を下る。(7:30)稜線のかげに入ると風もなく、暖かくのんびりと滑降の準備ができる。真砂沢は大きく左に曲がりながら剣沢に出合う。沢の傾斜は、源頭から剣沢の出合付近までは20~25度で、標高差は約1,000Mあり、スキー滑降には手ごろだ。新雪は風に押されて適度に堅く、いい具合である。デブリも無いので、すっきりとした滑りができた。源頭から剣沢との出合まで30分で滑降した。(8:00)
剣沢を別山乗越まで登り返す途中、長次郎谷が出合から剣岳山頂近くのコルまですっきり見えたので、よっぽど今日のうちに滑りたかったが、楽しみはあとに取っておくことにする。
剣御前小屋までもどって(11:40)しばらく休んでから、Kの捜索を兼ねて剣山荘まで滑ることにする。(14:20)別山の手前から剣沢に降り、剣御前の下をトラバースして別山平に出る。最後の斜面は数ある剣沢のバーンで一番好きなところだ。ときどきKをコールするが、返事も聞こえないまま剣山荘まで下ってしまう。(15:30)強い日差しの中を剣御前小屋まで登り返す。(16:00)剣御前小屋に着き、今夜もここに泊る。(17:00)
5月5日 晴のち曇
快晴の朝、一番で剣沢に滑りこむ。(6:20)昨日同様に剣御前の斜面をトラバースして、別山平のテント場めがけて朝の堅い雪を蹴りながら下る。わななく足に鞭打って、長次郎沢の出合まで下降する。(6:40)スキーを背負い、くっきりとしたスカイラインの長次郎のコルを目指す。(7:00)
昨日は新雪表層雪崩の危険を感じたが、今日長次郎谷を登ってみると、多い所では沢幅の3分の2ほどが雪崩れたばかりのデブリで埋まっていた。危険地帯を足早に抜けて、早いペースで長次郎のコルにたどり着く。(9:50)スキーはコルにデポし、剣岳の頂上に立つ。(10:25)昨年のGWにWさんとスキー縦走した山並みを見渡した。今年は雪が多い。
長次郎のコルからの滑降は、快適とは言い難かった。強い春の日に照らされた新雪は、グサグサに腐って、スキー操作が難しい。沢の下部へ来ると、今度は側壁からいつブロック雪崩があるか分からないので、滑りに集中できない。剣沢に出合う頃には、体より神経が疲れていた。(12:20)
今日は室堂まで下りたい。それで、剣沢を駆け上り、雷鳥沢を滑り下る。滑りだす前に(16:00)、剣御前小屋で飲んだビールがだんだん効いてくる。雷鳥平に着いた頃には、西日を浴びてグッタリする。それでも、ミクリガ池の温泉を楽しみに、地獄谷から室堂の台地に上がる。(17:10)
5月6日 晴
昨日までで充分に日に焼けて、ヒリヒリするくらいなので、朝日にあぶられる前に一ノ越に着いてしまいたい。後ろから迫ってくる立山の巨大な影に追い立てられるように、御山谷の源頭を目指して登る。(5:30)
カールの日陰から、朝日の眩い一ノ越に立つと、後立山の峰々が忽然と薄青い残雪をシルエットにして正面に聳えている。(6:30)
ここから黒部湖までの標高差1,230Mが、今山行のしめくくりの滑りである。
初めは堅い雪。右側の日の当たったところを選んで下る。谷を半分も下らないうちに、いささか足が強ばってくる。こんなことでは情けない。街へ帰ったら、もっとトレーニングしなければと、いつもながらの下山気分である。
谷の下部は特に悪い所もなく、まだ融けやらぬ雪塊が漂う黒部湖の波打ち際で、今年の5月連休のスキーをはずす。(7:30)
そこから湖岸道を黒四ダムのバス駅まで歩く。(8:45)