御殿場駅からのバスは、国立青年の家(標高約660m)までで、まだ富士山のずっと麓だ。これから山頂までの標高差が3,000m以上あるが、そんなことは気にせず、かんかん照りの舗装道路をスキーを背負って歩き始める。大汗をかいて五本松(標高約850m)に着く。ここで1回休み、気を取り直してまた歩く。するとしばらくして後ろから小型トラックが来て、「乗ってけ」、と言われる。わたしはこうして何度人に乗せてもらっただろうか。初めて乗せてもらったのは、中学2年の時だった。あれからもう10年以上たっている。いつもながらうれしい限りだ。
五本松から太郎坊(標高約1280m)の駐車場まで一気に駆け上がることができた。ここからいよいよ本格的に登り始めるわけだが、水が全然ない。そこで水場を探したが、こんな火山灰の真っ只中のどこに水場があろうか。ここでまたがっくりきたが、持ち前の楽観的な気持ちで「少し歩けば雪がある。」と信じて歩き出す。砂走りは下りは歩くのが早くなるが、重荷でののぼりは嫌らしい。1歩のぼると半歩下る感じだ。こうやって四苦八苦して登っていると、あたりを4輪駆動車がめちゃくちゃに走り回っている。ガスで何も見えない中を、太郎坊から4P登った5合目付近(標高約2,600m)で泊まることにする。久しぶりに重荷を背負って歩いたせいか、足の自由がきかなかったこともある。日陰に残っているわずかの雪を集めて、夕飯用の水を作る。
翌日は軽装で山頂を目指す。相変わらずのザクザク道を直登し、その後電光型の道をたどる。山頂直下でも積雪は地面が隠れるほどで、結局山頂までアイゼンは着けなかった。ポカポカと暖かい山頂にいると、なんだかバカバカしくなり、早々に下山する。テントを撤収して、なんの役にも立たなかったスキーをまた担いで、一気に太郎坊まで下った。太郎坊からはまたてくてくと歩きながら、何度か後ろを振り返った。すると五本松でワゴン車が止まってくれた。青年の家のバス停までのせてもらう。