1977年7月25日月曜日

奥穂高岳

7月25日

 体育局の菅平出張を終えて、岳沢へ向かう。岳沢ヒュッテ近くのテント場でMさんと合流する。


7月26日

 今日は奥穂高岳の南稜と前穂高岳の3峰フェースを登る。


 ヒュッテから岳沢をつめていくと、沢は扇沢と滝沢に分岐する。扇沢にルートを取り、雪渓を登って行く。やがて雪渓が分断し、大きなチョックストーンが沢をふさぐようにひっかかったところに出た。まっすぐ行かずに、右から高巻く。高巻き後、沢に降りずに、そのまま草付を急登する。ハイ松帯をよじ登り、左にトラバースすると、登りやすそうな草付に出た。


 そこから南稜に取り付くと、道らしきものがあって、なんの苦労もせずにトリコニイを越える。3番目のピークは右をパスする。あとは1か所狭い岩稜があっただけだった。その上はガラガラとした広い尾根になって、吊尾根の縦走路に飛び出した。


 吊尾根の最低鞍部から前穂高岳の3峰フェース基部に向けてトラバースする。左右に1本ずつあるルートのうち、右側のルートをとる。


 左上に向かうチムニーを登り、つぎに右のフェースをよじ登る。午前中に登った南稜の脆い岩に比べると、ここの岩は堅い岩に感じられる。やがて岩場の傾斜が落ちて来たので、お互いの体に巻きつけていたザイルをはずして、前穂高岳の本峰へと向かう。


7月27日

 今日は奥穂高岳のコブ尾根とジャンダルムの飛騨尾根を登る。


 きのうは南稜下部の草付の登りで苦労したので、今日はルンゼをなるべく高い所までつめることをMさんと出発前に申し合わせる。


 岳沢ヒュッテの前を通り過ぎ、コブ沢に入ると、すぐに雪渓になる。そのまま沢を詰めていくと、雪渓の上端に着く。シュルンドを避けて右側の岩に移り、沢をさらにつめる。今回はあまり高くまで沢をつめすぎたようだ。人があまり通った様子のないルンゼになって浮石が多い。コブ1峰の下で休む。


 1峰の登攀はさしたることもなし。1峰から2峰へはアップザイレンとなる。2峰へのガラガラした登りを済ませると、きのう登った南稜と3峰フェースが良く見える。縦走路へは尾根を直登すればよいのだが、コブ尾根の頭は脆そうなので、左から大きく巻く。


 コブ尾根は、つまらない登攀だったので、飛騨尾根はおもしろい登攀ができることを期待してαルンゼを下降する。飛騨尾根のT3から登ることを目標とした。かなり下ったなと思った地点から、右側の飛騨尾根に向けてトラバースする。


 飛騨尾根の最初の数ピッチは岩が非常に脆かった。そして、霧の晴れ間に左側を見ると、わたしたちが登っているのはT2のB尾根であることがわかった。登って行くとT3上の凹角に出て、急に岩がしっかりとしだした。T2からT1は岩峰で、楽しいクライミングができた。T1からジャンダルムまではコンテで行き終了した。


1977年7月6日水曜日

ツヅラ岩

 昨年引っ越したばかりの下宿先が区画整理のため立ち退きになり、その補償金として20万円が貰えることになった。わたしはそれまで、自分が自由に使える金として、20万円もの大金を手にしたことは無かった。これはついているぞ、と思った。と同時に、このような幸運はわたしの人生で二度と無いかもしれないのだから、この金は絶対無駄に使ってはいけない、と思った。

 それでよくよく考えた結果、この金を飛行機代にしてヨーロッパアルプスに登山に行こうと思った。わたしが高校生だった時、山岳部の顧問だったM先生が、「いつかヨーロッパアルプスに行ってみたい」と言っていた。ヨーロッパアルプスはそんなに良い所なのか、と思った。


 わたしはここまで5回ほど夏に北アルプスの槍穂高連峰で山登りを楽しんできた。その「北アルプス」と同じように、あるいはそれ以上に「ヨーロッパアルプス」が素晴らしい所であるなら、ぜひそこに行って登山がしてみたいと思った。


 それで1976年の秋に磯工祭へ行ったときにMさんを訪ね、「来年の夏にヨーロッパへ行きませんか」、と申し出た。Mさんは驚いたが、行きたいのはやまやまのようだった。それで、わたし自身の希望は1977年の夏に行くことだと話した。しかし、Mさんはいろいろな都合で来年は無理だが、再来年、1978年の夏であれば行けるという。その夏わたしは4年生で、就職活動の時期なのだが、なんとかなるだろうと自分で勝手に決め、1978年の夏に行くことにした。


 Mさんとは今後打合せと準備山行を重ねることに決め、準備山行の第1回として奥多摩のツヅラ岩にロッククライミングの練習に行くことになった。


 武蔵五日市駅でMさんと待ち合わせる。千足にMさんは車、わたしはバイクを置く。ツヅラ岩へは「大岳山」というルート標識をたどり、登っていく。蒸し暑くて、たっぷり汗をかく。Mさんはかったるそう。1時間半ぐらいでツヅラ岩に着いた。


 1本目は左寄りのルートを登る。へんてこりんなルートで、途中に狭いトンネルがあった。テラスから上の部分のクライミングが気持ちが良い。Mさんはこの1本でもう十分という感じだったが、わたしはもっと登りたかったので、つき合ってもらう。


 2本目は岩の右下から左上するルートをトップで登ったが、途中でMさんから「やめろ」の声が出て、右へ逃げる。カラビナを回収しながらMさんがセカンドで登ってくる。


 双方、今日は所用があるため、午後1時にツヅラ岩から下山し、千足で別れた。

ツヅラ岩で