1985年7月27日土曜日

甲斐駒ケ岳赤石沢

 来年夏のペルーアンデス遠征に備えて、会としてかつてないスケールとレベルで岩壁登攀を行った。計画段階で、入下山日が同一の者を固定したザイルパートナーとし、そのパーティーの希望と、同じルートに同日に2パーティーが取り付かないように調整した。また、装備や食料等はすべて各パーティー単位で準備することにした。

7月28日 晴 奥壁左ルンゼ パーティーW、H

 4時に7合のテント場を出発。8合の鳥居で見るモルゲンロートは、その日の猛暑を予告するかのように山の端を染めていた。


 8合目岩小屋前から第1バンドの踏み跡を下る。中央稜を回り込んでさらに下ると、階段状のフェースを登った。F1直下のハング下が取付きとなる。5時過ぎ、すでに奥壁は朝陽を受けて赤く染まっている。7月中旬に行った城ヶ崎のあかねの浜での、炎天下での苦しいクライミングを思い出しながら準備にかかる。


 1P目、まずはHがリードする。(5:30)小ハング下の外傾したバンドを越えてフェースを右上する。しかし、小カンテに移るところでつまってしまった。足がもう少し長ければ、腕がもう少し...。そんなことを言ってもしょうがないけれども...。


 Tと交替する。垂直の小カンテからさらに垂直に近いスラブへと移る。ボルト・ラダーをA1で順調に稼ぎながら、しかしボルトのピッチがかなり長いようだ。案の定、アブミの最上段に上がって、さらに腕をいっぱいに伸ばす動作の繰り返しとなる。セカンドの2人は9㎜の45Mザイルでそれぞれ確保されて、同時に登った。


 2P目、レッジから急峻なスラブを左上して流水溝に入る。わずかに濡れている。岩はしっかりしているので、思い切ってかつ、微妙なバランスも要求されるフリークライミングだ。広く安定した第2バンド上で、Tはドッカと腰をおろして確保していた。セカンドの気軽さもあって、かなりがむしゃらにスピードを上げてW-Hと続いた。


 3P目、F2落ち口の左下からのフェースを約5M登った付近にHがビレーポイントを取って、Wがリードする。そこから右上するクラック伝いにF2直下のピナクルを2つ越える。草付と濡れた弱い岩に注意しながらⅣ~A1でハング下を右上に抜けるとビレーボルトが2本打ってある。左上にもビレーポイントがあり、そこで3P目を区切った。H-Tが次々に登り立ち、4P目を再度Tに委ねる。


 フェースを左に下り気味に約5Mトラバースして、流水溝に入る。そのトラバースは少々かぶり気味で、顕著なフットホールド、ハンドホールドがない。そして濡れている。Tがフレンドを利用して、微妙にしかし確実に越した。左ルンゼの中で最も傾斜の強い流水溝をフリー(Ⅴ)とA1で直上する。


 F3の傾斜の緩いクラックを、足を突っ込んで、ハンドホールドを外に求めて快適に登ると2.7バンドだ。炎天に終始照らされて、息もあがり気味となる。核心部ともいえる4P、5Pを継続してリードしたTに再再度がんばってもらう。


 「誰もリードをしなくちゃ、みんなでセカンドをやるか...」とTに言われてみると、まだまだ消極的な自分を戒めた。とはいうものの、意欲の盛り上がりがいまひとつなのだ。体調はいいのだが...。Hもいまひとつパッとしないようだ。


 6P目、2.7バンドでルンゼはふさがれた感じになり、左に狭いF4 がある。Tがフレンドで確実なプロテクションをとりながら、急峻なルンゼをリードしていく。途中から右の垂直の狭いチムニーを登って、チョックストーンを越え、さらにルンゼ内の大きなチョックストーンを越えると、傾斜の緩いガレのルンゼとなる。コンテ登行で7P目F5のチムニーまで登り、そこにビレーポイントをとる。


 Wがリードする。この辺りからはまるで「雷おこし」がパラパラになったように風化が激しく、ピンはまったく残っていない。フレンドをかますにも苦労する。がっぷりとかぶったチムニーを、からだまるごと雷おこしに吸着させて、じわじわと登る。最悪の岩質だ。最後のガレのたい積に注意しながら乗越すとルンゼ登攀の終了となる。Tに続いてHがホッとした顔で上がってきた。


8P目、そのままWが先行して、ハング下の逆層スラブを15Mほどトラバースして、急な草付の踏み跡を登り、灌木でビレーして終了となった。(12:30)全装備をはずして中央稜に出る。岩稜伝いに登ると、稜線に出る最後の所でハードフリーとなる。Tは左上するクラック沿いに、ノーザイルで微妙な動作で抜けた。W、Hは右側のクラックの入ったかぶり気味の所を、腕力を頼りに一気に乗越して終了となった。(13:20)装備をはずして草付から上部にこれほどのきわどい所があるとは予想もしていなかった。これを抜けると、ヒョッコリと稜線に出るから、最後までザイルをはずさないのが確実だろう。


 ザックをデポして本峰までひなたぼっこに出かける。山頂の気温は21~22℃もあった。単純計算しても下界の猛暑はすさまじいことだろう。水は3人で5L持ってきたが、まだ足りないと思うほどだった。


 こうして暑い暑い甲斐駒の“ひと夏の経験”は3人のクライマーに燃えて尽きない何かを与えてくれた。              

(W記)


7月29日 晴 前衛壁Aフランケ赤蜘蛛ルート T、H

 昨日と同じく早朝に七丈のテント場を出発し(4:20)、8合目岩小屋から下降。8丈沢左俣にいったん降り立ち、右岸を巻く。Aフランケ下部へのバンドへの入り口を見逃してしまい、基部の岩小屋まで下降する。ここまでは1ヶ所八丈沢滝の落ち口上のスラブ(2~3M)のトラバース(Ⅲ+)がいやらしいが、明瞭な踏み跡がある。


 岩小屋よりスラブ(Ⅱ)を登り、途中水を補給して、赤蜘蛛ルートの取付きに着く。

(6:30)


 1P目。出だし2本目のピンが遠くてちょっと苦労するが、A1で20M。2P目はすばらしい大ジェードルのクラック。このルート唯一のフリークライム(Ⅳ~Ⅴ)を楽しめるピッチ。3P目。同じく大ジェードルからフリーからA1で20M登ってアブミ・ビレー。4P目。V字ハングを左からA1で抜け、かぶった壁をさらにA1で直上。5P目。20Mの岩の不安定なフェース(Ⅲ)から大テラス。ここはルート中唯一の安定したバンド状のテラスで、残置ザイルがあった。6P目。恐竜カンテ左の凹角からジェードルへフリー(Ⅴ)。7P目。白稜ルートと別れ、恐竜カンテ左の垂壁を直上(A1、35M)。ピンは多く、岩は安定しているが、下を見下ろすと高度感がすさまじく、思わず息をのむ。アブミ・ビレーのポイントは、ハーケンが4、5本あったが、それでも不安な気がした。フイフイで完全にぶらさがってビレー。8P目。A1で直上し、カンテを右にまわりこみ、さらにA1で直上。A1に慣れていないため、ここまで来ると腕も足もくたくたになる。次のピンが遠く感じられはじめる。アブミにのって次のピンに立ちこむとき、体が壁から離れてしまいそうで怖かった。灌木のあるレッジでビレー。35M。9P目。ブッシュの中、A1を交えて1P直上。さらに2P木登りをして、Aフランケ頭の岩小屋前に出て終了。(14:30)


7月31日 晴 前衛壁Aフランケ同志会左フェースルート T、H

 七丈から八丈への通い慣れた黒戸尾根の道を早暁とともに登りはじめる。(4:20)今日も暑くなりそうである。昨日激しい夕立が2時間ほどあったので、取付きまでのヤブの露に備えて、八丈岩小屋で合羽を着る。一昨日はAフランケ下部へ至るバンドの踏み跡を見落としたので、今朝は慎重に行き、うまく見つける。右フェース下の流水で水筒を満たし、バンドを左フェースルートの取付きまでトラバースする。(6:00)


 1P目の細かいスラブ(Ⅴ)は、右側の草付を登ってパスし、2P目から実質的な登攀を開始する。出だしはグズグズの草付跡で、始末が悪い。やむなくボルトを効いてなさそうなハーケンにアブミをかけて越す。木登りをして左上バンド(Ⅳ+)に至るが、フェースは脆く、スタンスが外傾している。残置ピンが少なく、ランニング・ビレーが取れない。バンドは松の木につきあたり終わる。3P目はA1の垂壁がである。途中で難しいフェースのフリークライム(Ⅴ+)が入り緊張する。4P目はピナクルテラスからA1で小ハングを越す。ボルトの間隔が遠くて、やや苦しい。脆いバンドでピッチを切る。後続する広瀬が小ハングでアブミを1台落したが、運よくピナクルテラスに引っかかった。取りに戻ってまた登り返す。5P目は、バンドから難しいトラバースを右に数歩した後、カンテを回り込む。その先をA1で直上し、灌木テラスで大休止する。


 草付バンドを10M左上し、核心部である6P目のクラック帯(Ⅵ-)に入る。ナッツでのA1を交えたフリークライムで、A字ハング下のテラスまで登る。このピッチでは、ロックスとフレンズが不可欠と感じた。7P目の出だしはハング下の濡れたスラブだが、残置ピンが多くやさしい。A字ハングは、A1のアブミ・トラバースのあと、ハングの出口でA2になる。出口のハーケンが遠いので四苦八苦していると、となりのルートを登っている女性から「コンニチワ―」とコールされた。そこで、瞬時に笑顔に改め「コンチワ―」と返事した。ハングの上部をA1で3M登るとスラブ状のビレイ・ポイントに着いた。つづくHが奮闘している様子が伺え、「ガンバレー」と声をかける。ハングから出てきたHの顔は真剣そのものだった。8P目はスラブ(Ⅲ)から強引にザイルを伸ばし、脆い垂壁をA1で越えて、45Mいっぱいで終了点につく。(15:30)


 時間がかかりすぎたことと、核心部をフリークライムで越せなかったことに悔いが残った。



1985年7月14日日曜日

城ケ崎

 夏の岩本番を前にして、ハードなクライミングがしたいという声に引きずられて、城ケ崎に行くことになった。

 あかねの浜は小ぢんまりしたエリアで、派手さはないが、ルートのグレードがいずれも5.6から5.9程度でわれわれにはちょうど良いレベルだ。岩場の向きも良く、日影になるのが遅い。ところがこの日は梅雨明けで、カラッと晴れて猛烈な日差しが降り注いだ。


<キャンドル> 5.7 トップロープ

<ツワブキ> 5.9 トップロープ

<広目天> 5.8+ リード

<持国天> 5.8 リード



1985年7月7日日曜日

川苔山逆川

 今年夏にパミールへ行くパーティーの壮行会として計画されたのだが、そのメンバーは1人も来なかった。先発組は奥多摩駅の近くで泊まって深酒をしたそうで、駅前で集合した時に皆元気が無かった。AMさんなどはいきなりもどしていた。

 川苔山の逆川は、林道を下ったところからすぐに滝をかけている、小ぢんまりとした沢だ。梅雨の雨に苔が洗われたようにきれいだ。ザイルが必要ない程度の滝が次々と出てきて面白い。しかし、最後山頂に出る沢の詰めが丁度ごみ溜めになっていて興ざめだった。