わたしは、高校では山岳部に入部して本格的に山登りを始めた。高校を中途退学してしまった兄は、低山ばかりを登るようになっていた。兄も以前は南アルプスや谷川岳に興味を持っていたのに、この頃は低山ばかりに行きたがっている。わたしは、この原因がわたしにあるのではないかと思っている。
わたしが北アルプスをはじめとする高山へ行き、意気揚々と帰ってくる一方で、兄は高みを忌み嫌うようにして低山に行くようになった。それは弟のわたしに対する対抗心に端を発していると感じていた。
今回も兄からなかば強引に誘われて、断ることもできず標高1,000mにも満たない低山に日帰りで行くことになった。
戸倉三山は秋川渓谷の入口に位置する山々で、刈寄山、市道山、臼杵山の三山が盆掘川を南から囲むように連なっている。普通はこれらの山を3つまとめて縦走する。
五日市の駅からバスで10分ほど行ってから林道を歩く。奥に採石場があるらしく、大型ダンプが盛んに往来する。少し行くと確かに採石場があった。石を取り崩したあとがかなり大きな崖になっている。子供の頃のわたしなら、きっと探検ごっこでもしたい気分になっただろう。素晴らしく徹底的に山が痛めつけられていた。
林道が終わると分かりにくい山道になった。しまいには杉の植林地の中の道なき道を行くことになった。しかし低山なので、ほどなく稜線に出た。そこからぶらぶらと三山を登って行った。