M先生からスキーに誘われたので出かけてみた。1人ではぜんぜん行く気がなかったといっていい。それほどにはスキーが好きではなかった。
新宿駅で待ち合わせて、夜行列車に乗る。一行はM先生とその知り合いと僕の合計7人であった。同級生のSを強引に誘ったのだが来なかった。
新島々からのバスの中で僕は少しはしゃいだ。それというのも、ここに一昨年の夏に来たことがあったので、それをひけらかしたかったのである。その時のM先生の目が今も印象的である。
バスは梓川を離れて番所へと登っていく。道が良くなると、乗鞍岳の中腹である鈴蘭高原であった。菊屋という宿に泊まった。これまで2回スキーで泊まった神城山荘に比較するととても高級な宿舎で、僕には勿体ないくらいだ。
僕はせっかちなので、すぐに滑りに行きたかったが、M先生は、「夜行で来たので疲れているから、十分休憩してからスキーへ行く」、と慎重だった。休憩時間が過ぎたのでよろこんで滑りに行った。先生の知り合いの人たちは、スキーが上手なのだろうと思っていたが、実際に滑ってみると、僕と大差ないことが分かった。
2日目は天気が良く、雪質も良くて気持ちよかった。カモシカ坂という斜面のコブもどうにか降りてこられたし、緩斜面では山周りのターンもできるようになったので、僕はスキーが上手くなったような気がした。神城でのスキーと比べると、リフトが使えるし、食事が上手いし、温泉に入れるし、女の子もいるし、楽しかった。全く意外なことだったが、2人いる女の子のうちの1人に僕は好かれているようだった。
3日目は天気が悪く、雪質はベタベタだった。昼頃でスキーは切り上げ、バスで下山し夕方の列車で東京へ帰った。新宿駅のホームでみんなと別れた時、あの子の目がなんだか潤んでいるような気がした。乗鞍高原で 1973年3月28日