山とスキーへの葛藤
わたしはこの頃1つのやむに止まれない気持ちを抱いていた。
それはわたしの目指す山登りに共感してくれるひとが、わたしの周りにはいない、という実感に端を発していた。なんとか同じ山登り、あるいはスキーを目指す人たちとグループを作れないものだろうかと焦っていた。
そうして考えたあげく、まず早稲田大学の中でそういったグループを立ち上げてみようと思った。わたし自身の中ではこのアイディアはたいそう盛り上がった。新たに山スキーのサークルを作るので会員を募集します、と掲示するポスターまで描いた。
しかし、冷静に考えてみると、自分は毎日朝9時から午後4時まで働き、その後夜9時まで勉強している身である。少なくとも平日にサークル活動ができる時間的余裕はほとんどない。だから、サークルを立ち上げても、自分は活動に参加するのは困難である。そう考え、サークルを作るアイディアはあきらめた。
わたしはまたこの頃、登山とスキーの兼用靴を買った。西独のハンスワグナー社製の2重靴で、インナーブーツの内側に羊毛が貼ってある素晴らしいものであった。この靴と、マーカーのツアー用ビンディングを組み合わせて、ともかく山スキーに出かけようと思った。
厳冬の谷川岳スキー単独行
上野22時17分発の上越線で水上駅へ行き、待合室で仮眠する。ついで早朝の列車で度合へ行き、凍った道路を歩いて天神平行きのロープウェーに乗る。天神平スキー場についたら、天神峠まで行くリフトが動き出すまでスキー練習をする。
ハンワグの兼用靴は足首が柔らかいので、スキー滑降の際に前傾は楽だが、いったん後傾になると態勢を元に戻すのが難しい。それで、いつも後継にならないよう注意してすべるようにした。
リフトに乗って峠へ行き、そこから天神尾根をたどる。大斜面の下までは比較的狭い尾根で、2、3回転ぶ。天気がとても良く、雪面にシールを効かせて気持ち良く登った。斜面を半分ほど登ったところで山ヤがキャッキャと騒ぎながら降りてくる。そのうちの1人に写真を撮ってもらった。
峠からはとても大きな斜面に見えたが、登ってみると大したことは無かった。たどり着いた山頂には登山者の姿は少なく、風もなく、眺めが非常に良い。はじめてのスキー登山がこんなに上手くいって、わたしはついていると思った。
わたしは間食も非常食も用意してこなかったが、腹がすいていた。1人の登山者が美味しそうなものをいろいろ持っていたので、少し頂いた。
さて帰りは大斜面の滑降である。気持ちよく飛ばしたが、ところどころ雪質が極端に変化している場所があって、何回か転倒する。風が強い時があるのだと思った。大斜面の下部に近づいたあたりで足の筋肉がつりそうになった。
大斜面が終わり、峠まで尾根を渡る部分では、雪質が柔らかくなっていてスキー歩行に苦労した。スキー場のロッジに着いたときは腹がペコペコになっていたが、ここでは思う存分に食事ができた。
リフトの運転終了時間までゲレンデでたっぷり滑り、最後は田尻沢を滑降して締めくくった。
自分がやりたいことができた気がして楽しかった。