1986年8月11日月曜日

黒部川源流域

以下、報告書(K)より

8月11日

 夜の明けきらない大町に降り与作と合流。駅前にはそばの鉢植えがあり白い花をつけていた。始発バスに乗り扇沢へ。6:30のトロリーバスは時刻表から消えていて7:30が始発となっている。人はバスで荷物はトラックと運搬方法が変更になっていて、バスは通勤ラッシュなみの混雑でした。


 ダムで身支度をととのえ出発!(8:20)春先はダムサイトまで滑れるそうだが、わたしなんかは、ダムに突っ込みそうな気がする。湖に沿って平ノ小屋までハイキングコースを歩く。花が咲き終わり、実をつけた植物が目につく。雪どけと同時に一斉に花開くのだろうと、その頃歩けたら最高と思いつつ、与作の足並みに遅れないようについていく。


 平ノ渡しには先客が1人。後から青年2人が来て、我々と3パーティー船に乗る。(12:05)渡しの料金はいらないが、下船時おじさんにスマイルを返すことを忘れないこと。


 対岸に着き歩き始めると、こちらに向って走ってくる男性がいる。「待ってくれー」と叫びながら船着場に走っていく。これを見てK、当会のS氏を思い出すなあと苦笑する。


 テンバで夕食を食べていると、平ノ渡しで会った青年がダルマとツマミ持参で、上ノ廊下のことを詳しく知りたいと言って合流する。与作寝ているが、もそっと起き上がり、地図を広げて説明をする。飲むほどに舌もなめらかに回り、最後は焚火をかこみ合唱が始まる。雲ノ平の歌があることを知り、青年に教わるが、覚えられなかった。K、与作の声が夜空にひびく。わたしは札付の音痴故にパクパクとオゾンを吸っている。


 ちなみに青年は、日産自動車山岳部所属で、今日は総勢できているとのこと。


 満天の星空。明日もはれ。(敬称略)


8月12日

 いよいよ体力だけがたよりの山歩きの始まりです。(7:15)大丈夫かな・・・。小屋の前の大木に高天原新道入口と書いた真新しい看板が打ちつけてあり、その根元にはキヌガサソウが群生している。すぐに笹におおわれた、ゆるやかな登りとなる。樹林帯のため、それほど暑さも気にならず歩くことができるが、笹の切り株が、やたら靴に引っかかり歩きにくい。笹も太いし、木も大木が多く、人の手の入っていない山奥へと進んでいく。樹林帯から薬師岳が見え隠れし、アップダウンの始まりとなる。与作、昨日のアルコールが残っているらしく、足元がかろやかに踊っているように見える。


 1,866M付近に元気のでる水あり(名づけて高天原銘水)。(10:30)正確な位置は与作氏におたずねください。この先を歩いているとK、今何か黒いものが走っていった。カモシカかクマかも知れんという。与作笛を出そうかどうしようかと迷うが、ヘロヘロコールで追い払うことにする。口元のタルへの急降下の途中、真黒な大キジを発見。これは誰のもの。もしかすると・・・。


 口元のタルで、スノーブリッジをながめながら昼食。(11:35)後を流れる川の上部にミズバショウのおばけが1株あった。


 2,070M地点を通過し歩いていると、何やら獣の走る音をK、小出の2人が聞く。与作笛を取り出し吹く。恐かったですヨ。


 笹をかき分けようやく薬師見平に着く。(15:15)突然別世界に来たように感じ、ワタスゲの白さが印象的でした。その名のとおり薬師を存分にながめることができる。


 今日の目的地姿見平へと急ぐ。こちらは薬師が一段と大きく迫ってくる。(17:15)


 沢から10分位のところなので水の心配はいらないが、湿地のため団体の場合はテンバに不自由するかもしれない。今日は途中で仕入れた松茸を夕食に調理し、食べる。他にもカラフルな茸あり。秋に茸をよく知っている人と一緒に歩くと、かなりの収穫を得られるかも。体力に自信のある方は是非1度お試しください。


 Kは、Kちゃん今頃新宿に向っているころだとつぶやく。今日は夢でお話ししてください。


 今日も星空明日も晴れ。


8月13日

 昨日食べた松茸の影響も出ず元気に目ざめる。モウセンゴケに虫がかかっているとK。わたしも見たことないので、確かめる。試しに指を出してみるが変化なし。虫でないとだめなようだ。


 歩きはじめは、なだらかな草原と庭園歩きを楽しむことができる。(6:20)そして急降下がはじまり、夢ノ平近くまでアップダウンを繰り返すが、昨日の比ではない。岩のペンキを拾いながら歩く。日当たりの良いところで突如、ヘビの出現に驚き、なかなか動かないので遠回りをする。先頭を歩いている与作つらいヨネ。


 やがて、なだらかな歩きになると夢ノ平は間近です。


 与作の夢にまで見たところ、とうとう来ました。(9:05)左に入っていくと大きな池塘があった。そこでリュックをおろし、しばし夢を見る。温泉で汗を流し、ビールで元気つけて、上ノ廊下にチャレンジ。温泉から沢への下りは、踏み跡を拾いながら行くので迷い込まないように注意すること。



 いよいよ沢歩きの仕度をする。3人3様のかっこうである。靴下の上にワラジをつけて、初めての沢歩きを体験。なかなか歩き心地よいもので、ワラジを見直しました。ワラゾウリは子供の頃履いた記憶があるのですが、みなさんは履いたことはないでしょうネ。


 立石の大きな釜を見て、ここで泳ぐのかなと不安になるが、先行パーティーが岩の上を歩いて行ったのでホッとする。(13:05)しばらくするとK水の中にズンと入っていく。わたしも後に続くが、腰の上まで水が来た時は、心臓がドキンドキン。黒部川に気迫負けしそうになる。水も少し冷たく感じる。立石の奇岩にしばし見とれる。(13:45)なかでも、川のそばに石柱のようにそそり立つ岩肌を見ながら崩壊する様を想像し、遠巻きにながめ返す。この先は岩をピョンピョン飛びながら歩くようになる。途中の岩の上にカワラナデシコが群生していて、甘い香りを漂わせており、○○をする。Kは気がついたかな?はるか先を歩いている。後からくる与作を待って、この甘い香りを味わってもらう。迷惑だったかしら!


 小屋まで、あと少しだが空腹に耐えきれず、腹ごしらえをする。また歩き出すと、木の標識が目につくようになり小屋が近いことを確認する。ふり返ると、真っ青な空が谷に吸い込まれるように消えている。山深く入って来た実感を味わう。やがて目の前に吊り橋が見え小屋が見えてくる。(17:20)


 T、Kの両氏と合流。2人は3時前に着き、いまか、いまかと首を長~くして待っていたが、5時までに合流できなかったので、今日の宿泊手続きを完了した時にKが到着したので宿泊をキャンセルする。小屋の人に、「どこに寝ているのだ」と言われたそうだ。ここは幕営禁止になっているようだ。しかし奥に入ると、テントがあるある。お互い心得たものである。


 河原で焚火をしながら夕食をとる。


 星が出ている明日も晴れ。


8月14日

 朝食をとりながら、今日のコースを考える。黒部源頭をつめていき、帰りに祖父沢、祖母沢のコースに別れようか、と冗談を言いながら、源頭をつめることにする。与作は、今日は休養日にするという。わたしもうむと考えるが、せっかくきたのだからと歩くことにする。

昨日使ったワラジを前後逆に履きかえ出発。(8:20)


 赤木沢出合までは、危険な所もなく歩きやすく、心なしか廊下よりも流れが緩やかなような気がする。赤木沢の出合の釜を見つめながら明日は、ここを泳ぐのかな、やだなと思って見上げると、あったあった登山道が。こういうところは必ず高巻く道があることを知る。(9:00)また、春にカモシカと出会った場所でもあるとのこと。鷲羽が見えるあたりからお花畑が左右に広がりクロユリを発見した時は皆を呼び戻してしまった。


 祖父岳の360度のパノラマを楽しむには、大きなケルンがたくさんあり目ざわりに思うが、(13:45)雲の平山荘からの祖父岳はケルンのない丸味をおびやさしく横たわっていました。(14:35)


 ビールを飲んで小休止し、広い広い雲ノ平をぬけ、薬師沢への急降下が始まると、50分ほどで小屋に着く。(16:50)テンバに行くと、Mが到着している。これで安心とのんびり食事をする。与作は昼に小屋でラーメンと煙草を注文したらラーメンしか出てこなかったとなげく。そして橘君のことを先輩と慕いはじめる。焚火をかこみ夕食をとる。今日はデザートつきでした。全員揃ったせいか、遅くまで焚火をし与作の美声をまた聞くことができました。そして、皆がしょってきたアルコールは底をついてしまった。


8月15日

 くもり空をあおぎながら、赤木沢出合いに向って歩く。(8:00)途中高巻きしたところに、ミズバショウのおばけが生えていました。


 出合でも高巻いたが、釜を横切った橘いわく、楽に渡れるとのこと。滑滝が続いていて、なんと気持ちのよいものなんだろう。これが沢登りというものか最高!水温もむしろ暖かいと感じ楽しみながら歩く。稜線が見えはじめてくると大滝も近い。35Mの大滝は一見の価値があります。(10:40)


 さらにつめ、焚火で濡れた衣類を乾かし稜線に出る。直下に雪渓が残っていて、誰からともなく与作に向って雪をなげはじめる○○退治のはじまりはじまり。足元をみると、山椒魚が1匹氷漬けになっているのを発見。どうしてこんな所に迷い込んだのかな・・・。遊びすぎるとこうなるのかな。(13:05)


 両脇にリンドウやハクサンイチゲを見ながら黒五に進んでいく。山頂に着いた頃はガスでみんなの顔しか見えなかった。(14:30)テントを張っていると背後でヘロヘロコールが聞こえる。(16:15)しばらくながめていると、こちらに飛んでくる人がいる。近づいてみると丸㤗である。聞けば前日について待っていたのだそうです。さっそくビールで乾杯となる。


 今日もデザートつき。Y氏たくさん食べたいので水の量を3倍程にするが固まりました。次回からはこの作り方で質より量を追求しましょう。


 テントにかこまれているSのツエルトがかわいく見えました。


8月16日

 ゆったりとした出発のため、テンバを後にしたときには、テントが1張だけ残っていました。(7:45)


 小屋の後から一気に登りがはじまりややきつく感じるが、こういう時は黙々と足を前に出すに限る。目の前が明るくなってくると三俣手前のピークであり、ここで一休みする。2日前に歩いた祖父岳、雲ノ平を間近に望み、今日は谷底じゃなく、上へ上へと歩いて行くのかと思うと気が楽になってくる。


 三俣から双六へのなだらかな歩きがはじまり、ゴゼンタチバナ、リンドウ、ウサギギク、ETCが目を楽しませてくれた。


 双六小屋でラーメンを食べたり、牛乳を飲んだり、青リンゴもありました。(11:10)下界のラーメンより麺が固いそうです。よくかんで食べましょう。双六池の脇に小さな雪渓が残っていた。弓折の直下に黒ユリを発見するが、色からして茶ユリと呼びたくなる。秩父岩のところの雪渓で水を補給すべく探すが見当たらずにあきらめる。こんな所でテントを張っている人がいる。そして、側の岩には、ここでの幕営を禁ずと白ペンキで大きく書いてある。また登りはじめ杓子の分岐に着いたころには、疲れを感じる。(15:40)笠の小屋が見えているが遠く思える。みんなが腰を上げようとしないので隊長自ら立ち上がり、リュックをしょっての一声でみな立ち上がる。


 テンバはまあまあの広さだが石がゴロゴロしているので、どこにでも張れるという訳にはいかない。(16:40)水場は3分ばかり下った雪渓のところにある。さっそくK、Kはサブザックでアルコールを仕入れに小屋へとむかう。赤いザックをふくらませて帰ってくる。ビール、チューハイ、ウィスキーが並ぶ。早速最後の晩さんがはじまる。各自残っている食料を放出し、それらしくなる。


 コーヒーゼリーで締めくくるつもりが、寒天とゼリーを併用したためか、固まらず1晩放置する。


8月17日

 朝テントから顔を出すと、槍・穂高の黒いシルエットがうかびあがっている。近くで見ると槍の山頂は丸味をおびている。最後の食事にふさわしく、おぞうにを食べました。もう下山日。予定どおりの進行である。


 昨日作ったコーヒーゼリーが1晩冷気にさらされ食べごろとなっていたが日が昇るにつれ分離がはじまり水々しいゼリーとなってしまった。


 笠への登りで、新穂高へ下る道は途中橋が流されているので中止しましたというグループに出会う。山頂では隊長が悩んでいる様子だが、予定どおり行動することに決定する。


 ここでK地下足袋の上にワラジを履く。これがなかなか笠とマッチしている。これからの下りは昭文社と日地の地図で確認すると2時間の差が生じているが♨につけば、はっきりするだろう。どんどん高度を下げていく。ここは登ってくる人はいないよ誰にも会わないよと言っていたら、来るではありませんか、男が1人。すごいなあ。心の中で声援を送る。錫杖岩にクライマー達がとりついているのが見え沢を横切ると♨はもうすぐ。みんなの足運びが速くなる。下りきったところに「増水時は、笠新道に回るように」と看板がたててありました。


 ビール片手に温泉へつかる宿の前に赤く色づいた野イチゴがあったので味見をしたがおいしくなかった。バス停は近い。そして、そこの売店のメニューがおもしろい。みだらしだんご1本50円が印象に残る。バスを乗り継ぎ新島々へ。そして、代表の待つ小波へと急ぐ。代表に連絡をとるが通じない。我らだけで祝杯をあげ帰京する。