1983年3月20日日曜日

蓬峠から大烏帽子山

 忙しくて仕事づけになっていた。仕事が終わって急いで家に帰り、山支度をして上野駅から22:10発の谷川列車に飛び乗ると、なんともいえない解放感が胸に広がる。この心持ちは同行のTさんとOも同じらしく缶ビールの栓をニコニコしてあけている。

 この時期、春分の日前後は山スキーを最も楽しむことができる時である。はじめは平標山から仙ノ倉山周辺の沢を中心にしたコースを考えていたが、Tさんがもっと変わったところに行きたいというので、今回のコースとした。建設工事中の関越自動車道の真っただ中が土樽の駅である。駅の便所の前で明るくなるまで仮眠した後、スキーにシールをつけて蓬峠への道を登って行く。天気は上々で、上越国境の山々がくっきりと見える。蓬沢ぞいの道から、左に杉林の中に続く踏み跡をたどる。やがて林をぬけて、沢のくぼみの中を正面の尾根めがけてすすむ。ここまでほとんどラッセルはなかった。


 蓬峠から足拍子岳へ続く稜線につきあげる小尾根は、途中まで蓬峠へと向かう夏道があるが、それは小尾根を登らずに右へトラバースしていってしまう。その後尾根はスキー登行しにくい、狭くて急な状態になる。ここで全くいつもながら岡部が遅れる。天気が良い日はいつもそうだが、はやく稜線へ出て景色を楽しみながら漫歩したくて気がせく。こんな時にバテられるのは腹が立つが、しかたない。


 稜線に出ると全くの快晴である。歌など口ずさみながら、蓬峠の清水峠よりの国境稜線に出て、ここから北東方向に行く。七ツ小屋山から本日唯一の滑りを楽しんで清水峠につく。清水峠の越後側の斜面に1時間半かけて雪洞を掘り、そこに泊まることにする。誰も酒をもってこなかったので、少しさびしい夜だった。


 翌日は天気が悪かったが、雨は降らないだろうという予測で、予定通り大烏帽子山経由で宝川に下ることにする。


 ジャンクションピークから大烏帽子山方面に下るところが視界も悪くやや躊躇した。大烏帽子山のピークを往復していよいよ滑降なのだが、ガスがひどくて視界が非常に悪い。このようなときに大斜面をスキー滑降すると、三半規管がおかしくなって、船酔いのようになってしまう。以前立山の雷鳥沢でもなった。


 ロクロク滑りを楽しむこともできないうちに沢の傾斜がゆるくなった。あとは狭く歩きにくい沢の底を、這いまわるようにして宝川温泉まで出た。