吉田口の5合目から山頂までの広大な雪面を見渡すことができた。昨年の落石事故の現場となった吉田大沢の沢筋に、春の雪解け水がキラキラと流れていた。30分ほど登るとKは汗びっしょりになった。沢山着込んでいるためだった。どこを滑り降りるか、歩きながら考えていると時間がすぐに過ぎてしまう。
Kは調子が良くないようだ。沢の上部で、屏風尾根へ左上していくあたりでアイゼンを付ける頃になると、どうにも体が言うことを効かないようだった。
ようやく山頂へ到着したが、すでに夕暮れがせまっているので山頂でのスキー滑降はあきらめ、ツェルトをかぶって寝た。
5月24日
翌日は気温が低く、雲が厚く空を覆っていた。このため、滑降を予定している斜面が適度に柔らかくなることは期待出来なかった。火口内部を滑ることができるか、虎岩まで行って様子を見る。スキー滑降どころか、ノーザイルではアイゼンでの下降も危険な様子だった。そのため、お中道でアイゼン歩行とピッケルワークの訓練をした。
そして5合目に向かってスキー滑降をはじめたのだが、これほどの悪雪に悩まされたことはなかった。不規則に溶けた雪の表面が、夜間に凍りつき、波を打っている。快適なザラメ雪を楽しむどころか、足を取られて転倒を繰り返し、ようやく5合目についた。