2016年4月9日土曜日

黒旅(3)田原⇒和歌山

2016年4月4日 田原⇒伊勢 50㎞



10:00 去年の5月に雨の中ここ田原に着きました。今日は雨の中を出発です。

12:10 渥美半島の先端の伊良湖岬から伊勢湾を横断するフェリーに乗り鳥羽へ向かいました。
12:30 波のむこうに神島がかすんで見えます。「歌島は人口千四百、周囲一里に充たない小島である」と三島由紀夫が書き出した小説「潮騒」の舞台となった島です。いま人口は五百人あまりまで減ったそうです。




13:50 鳥羽からふたたび自転車を漕ぎだし伊勢に向かいました。静かな山道を下って平地に出るといたく整った田んぼが見えました。止まってみると「神宮神田」とありました。
14:30 伊勢内宮に着きさっそく「めひびうどん」で腹ごしらえしました。めひびとはわかめの芽かぶを乾燥させて刻んだものだそうです。





15:30 外宮へお参りにいきました。内宮とはまたちがい静かで明るいところでした。

16:30 河崎の商家町を見にいきました。通りと川に挟まれた狭い地割をできるだけ効率よくつかおうという工夫がいたるところに見えました。





ここの蔵には通りと川の方向に合わせて敷地が平行四辺形になっているものがありました。

商人の工夫は建物だけでなくソフトにも及んでいたようです。その最たるものが日本最古の紙幣といわれるこの山田羽書でしょう。詳細は写真を拡大してご覧ください。





18:00 星出館という古風な旅館にチェックインしました。




2016年4月5日 伊勢(三重県)➡伊賀(三重県)92km

 

7:45 星出館を漕ぎだしました。今日は晴れました。やや強い向かい風が吹いています。

10:00 津の市街で関宿への道を確かめようとフロントバッグの上の地図に目を落としました。そして顔を上げるともう知らないおじさんが目の前に立っていました。

「なにを探しているんですか?」
「関宿へ行く道です」
「それじゃあ県庁の前をとおって右に曲がって真っ直ぐいけばいいよ。いや県庁のところの坂がちょっと急かな。県庁の先を回ったほうがいいだろうか。でも大丈夫しょう。じゃあ気をつけていってください」

三重のひとは親切だなあと思いました。

11:30 津の市街をぬけて田んぼの中の真っ直ぐな道を漕いでいくと大きな寺の屋根が家並みの向こうに見えました。寺は専修寺(せんじゅじ)という真宗の古刹で家並みは重伝建地区である一身田(いっしんだ)の寺内町でした。



寺内町は寺を取り囲むように家が整然と密集しています。通りにはちりひとつ落ちていないし軒下には花などが飾られています。寺から流れてくる空気がこのまちなみを形作っているのを感じました。そしてこのような暮らしを必要とした当時の世の中一般の厳しさを想ってみました。

13:00 伊勢別街道をたどって重伝建地区である東海道の関宿まで来ました。この鳥居は伊勢神宮内宮にあったものです。式年遷宮のたびに古い鳥居を削りなおして移築するのだそうです。
13:15 関まちなみ資料館を見学しました。係のかたがとても丁寧に説明してくれました。






建物はよく保全されていて旅人が行き来した当時が目に浮かぶようです。多くは空き家でしんとしていました。どうやってここをひとが使うようにできるのか考えるのが大切ではないかと思いました。

14:30 関宿から大和街道の山桜の咲く谷あいを走っていくと道がふたまたになりました。バッグの上の地図に目を落とし、現在位置をたしかめ、そして顔をあげるといつのまにかおじさんが立っていました。

「どこへ行くの?」
「伊賀です」
「では右の道ですよ。関宿からきたんですか?」
「ええそうです。静かでいい道ですね」
「ここにいると当たり前でわからないが、そうですか?」
「まちがいなくそうです。ありがとうございました」
「気を付けて」

三重の人はほんとうに親切だなあとおもいました。

16:30 伊賀の芭蕉の生家に着きました。芭蕉は料理が上手だったそうです。弟子たちになにかのお礼のためにふるまったという品書が貼ってありました。料理のことはわからないわたしですがその品数の多さと献立の多様さに驚かされました。
釣月軒 内部

釣月軒 外観
生家のわきに釣月軒(ちょうげつけん)という建物がありました。芭蕉は帰郷した際にここで起居していたそうです。







17:00 薫楽荘という登録指定文化財の旅館にチェックインしました。


2016年4月6日 伊賀(三重県)➡明日香(奈良県) 68km


8:00 伊賀米がおいしかった薫楽荘を漕ぎだしました。今日は晴れて風もありません。大和高原を越えて奈良へいきます。

8:45 名張川にかかる五月橋をわたりここから大和高原へ上ります。これから山道です。
10:00 大和街道(国道25号線)のわきに自転車をころがして休みます。お茶畑がありのんびりした景色です。
11:30 大和高原を越えて奈良盆地の東のへりにある山辺(やまのべ)の道に出ました。無人販売所で甘夏を買ってたべました。ここから盆地の底まで気持ちの良い下りです。





11:45 畑の向こうに箸墓(はしはか)古墳
が見えました。卑弥呼のお墓、とも
いわれる日本で最古級の古墳です。
ここから南下します。
八木札ノ辻交流館
13:00 するすると路地を行くとおもむきのある十字路に出ました。八木札ノ辻というところだそうです。走ってきた道は日本書紀(613年)にでてくる日本最古の官道(国道)だそう。



札ノ辻の両側の建物は江戸時代に建てられた旅籠(はたご)です。右(東)側は復元改築されて八木札ノ辻交流館になっています。係のひとが丁寧に説明してくれ、お茶までいただきました。






うえの写真は2階の部屋から札の辻を見下ろしたところです。右は2階から1階に降りる急な階段の上部です。夜は板戸を下ろして行き来ができないようにしていたそうです。さてなぜでしょうか?
14:00 今井町の重伝建地区に着きました。ここも一身田の街並みと同じ寺内町で感じがよく似ています。今井まちや館に入り係のかたから今井町のいまについてお話をうかがいました。


今井町は古くからこの地方の経済・流通の中心地でした。町内にはたくさんの商家があり、その従業員は商家の持ち家に住んでいました。時が過ぎて経済が今井町の外で展開するようになると今井町の商業は下火になりました。従業員が減り空き家が増えました。今井町ではこの空き家にこれから若い人が住んでくれることを期待しています。じっさい大阪も通勤圏に入るほど立地は良いので可能性を感じるのですがいかがでしょうか。

16:45 高松塚古墳を見てから石舞台古墳へ来ました。作業を人力でやっていた時代に、このような巨石をどこからどのようにして持ってきたのでしょうか。これはながいあいだ個人的ななぞでした。石積を近くで見てみるとあらためてその大きさにおどろかされます。近くに説明看板があり、古墳をどのように作ったか描いてありました。長年の疑問は氷解しました。さらに自分が入るくらいの古墳は自分で作れそうだなと自信を得ることもできました。

石ひとつひとつに表情があるのですね。
17:15 明日香村のアスカゲストハウスにチェックインしました。とおりに面した古民家の内装をモダンに改装したすてきな宿舎です。写真は共同のリビングです。


2016年4月7日 明日香(奈良県)➡高野山(和歌山県) 58km

 

8:50 朝から雨で様子見をしていました。好天のきざしがないのでポンチョを着て出立しました。

近鉄吉野線に沿って薬水まで行きました。そこから今度はほぼJR和歌山線に沿って五條まで雨の中を漕ぎました。さいわいアップダウンは少ないので消耗しませんでした。

11:00 五條新町が重伝建地区であることに着いてから気がつきました。ずぶぬれのまま「まちなみ伝承館」に入り係の方から説明をうかがいました。五條という地名は5つの大きな街道が交わることに由来すること。天誅組の変では市内に「五條仮政府」が置かれたこと。五條と新宮を結ぶはずだった鉄道の高架橋が残っていること、などなど。わたしの知らなかったこのまちにもあまたの歴史が積み重なっているのですね。
11:30 通りに蕎麦屋があったので入りました。これから高野山への上りなので温かい蕎麦でもたべてすこし勢いをつけようかなと思いました。夫婦とそのどちらかのお母さんの三人で切り盛りしているちいさな店でした。雨の中をこれから自転車で高野山へ上ると知って主人は道順を一緒に考えてくれました。奥さんとお母さんはちょっと元気がありませんでしたが、出かけるときは笑顔で見送ってくれました。

15:10 高野山への登り口は標高100mぐらいです。そこから2時間かけて嵐の中を標高854mの大門に着きました。そこから成福院の宿坊までは10分ほどの下りでした。

宿坊の皆さんはとても親切でした。ストーブをつけてくれたので服や靴をきれいに乾かすことができました。風呂にはいってさっぱりしたあと夕飯には精進料理のお膳に般若湯をつけていただきました。



2016年4月8日 高野山(和歌山県)➡和歌山 63km


6:30 朝のお勤めでは成福院の住職から「心を豊かに」というお話がありました。
8:00 大門、金堂、東塔、御影堂などを見て歩きました。

9:00 金剛峯寺で仏生会(お釈迦様の誕生日)の甘茶をいただきました。
10:00 チェックアウトして奥の院へ行きました。歴史上の人物のお墓がたくさんありました。






11:30 奥の院から和歌山へ漕ぎだしました。標高差750mの坂を一気に下りました。あとは紀ノ川に沿って和歌山まで行きます。

16:30 ツバメ号を宅急便で自宅へ送り、身軽になって和歌山の中心街へ向かいます。まず銭湯に入ってそれからどこかいい店を探しましょう。



黒旅(3)走行距離:331㎞

黒旅(1)~(3)走行距離:738㎞